プロセスバリデーションー「全数検査するから不要」の罠
(本稿では、主として医療機器QMSにおける製造工程のバリデーション要否を扱う。医薬品GMPでは、最終検査が可能な工程であってもバリデーションが不要になるわけではない点に留意されたい。)「この工程は全数検査しているのだから、プロセスバリデーションは不要だ」ーー一見、筋が通って聞こえる。
検査で全部確かめるなら、工程を検証する必要はない、という理屈だ。だが、ここには工程の性質を見落とした罠がある。出発点となる問いは「この工程の重要な出力を、後続の監視又は測定によって十分に検証できるか」である。
QMS省令第45条も、後続の監視・測定によって工程出力情報を検証できない場合、または検証しない場合に、工程バリデーションを要求している。製品を使用・操作した後に初めて不具合が判明する場合も、ここに含まれる。そして、検証できれば終わりではない。
GHTFの判断フローは、出力が検証可能な場合であっても、次に「検証だけで受容できないリスクを除去できるか」「費用対効果の上で適切か」を問う。「測れる」ことと「検査だけで十分に品質を担保できる」ことは、同義ではないのである。滅菌はその典型だ。
個々の製品の無菌性を、最終製品試験だけで保証することはできない。無菌試験は破壊的で全数に適用できないだけでなく、試験対象や検出能力にも限界がある。だからこそ滅菌プロセスをバリデートし、日常のプロセスパラメータと管理記録に基づいて無菌性を保証する。
QMS省令第46条は、滅菌工程および無菌バリアシステムに係る工程について、初回実施時や変更時のバリデーションを明示的に求めており、滅菌バリデーション基準もパラメトリックリリース等を規定している。溶着や接着も要注意だが、工程名で一律に決まるわけではない。外観を全数確認できても、接合強度や密封性、内部欠陥、長期耐久性まで非破壊で確認できるとは限らない。
検査が重要な故障モードを十分に捉えられない場合に、バリデーションの対象となる。逆に、切断後の寸法のように、要求された特性を適切な測定方法で確認できる工程は、検証と適切な工程管理によって担保できる場合がある。ここで注意したいのは、締付けトルクをこの側に置く誤りだ。
締付け時のトルク値を測定・記録しても、それは通常、工程パラメータが所定範囲にあったことの証拠にすぎない。実際の軸力、ねじ山の損傷、かじり、異物の介在、長期的な緩みまでを直接確認するものではない。

つまり「全数検査するから不要」という主張が成り立つのは、重要な出力を検査で十分に検証でき、かつその検査で残余リスクを受容水準まで管理できる工程に限られる。そうでない工程でこれを言えば、単に何も担保していないことになる。
あくまで直感的な比喩としていえば、ベリフィケーションは個々の結果が要求事項を満たしたことを確認する活動であり、工程バリデーションは、その工程が定めた条件下で適合結果を一貫して生み出せる能力を実証する活動である。ただし、両者の正式な違いは過去形と未来形という時間軸ではない。ベリフィケーションは製造後だけでなく工程内でも行われるし、バリデーションも初期の実証で完結せず、継続的な監視、変更評価、必要に応じた再バリデーションを含む。
QMS省令第45条は、再バリデーションの判定基準と工程変更の承認を文書化することまで求めている。筆者がこの比喩を使うのは「個々のモノを確かめる営み」と「工程の能力を実証する営み」が別物だと腹に落ちてもらうためであって、定義の置き換えではない。
判断のプロセスは、こう整理できる。まず「この工程の重要な出力を、後続の監視又は測定によって十分に検証できるか」。検証可能な場合でも、その検証が重要な不適合を確実に検出し、受容できないリスクを十分に管理できるかを確認する。
答えがノーなら、工程バリデーション、または製品・工程の再設計が必要となる。なお、合理的なサンプリングと統計的根拠によって管理できる工程もあるため「全数検査できなければ即バリデーション」という単純な図式でもない。QMS省令第45条第3項も、バリデーションに統計的方法を用いる場合には検体数設定の根拠を文書化することを求めている。
実務でよくあるのが、コスト削減や工程短縮の名目で、バリデーション済みの工程を「全数検査に切り替えたから、もうバリデーションは維持しなくてよい」とする判断だ。これは自動的には成立しない。管理戦略の変更として、少なくとも次を評価する必要がある。
管理方法の変更が品質・安全性に及ぼす影響の評価(変更管理)、検査法が重要品質特性と故障モードを十分に検出できることの確認、各製品に検査が確実に適用され記録とトレーサビリティが維持されること、検査中心の管理で残余リスクが受容可能かの判断、工程変更として再バリデーションが必要かの文書化、そして検査不良率・工程パラメータ・苦情・逸脱などの傾向監視である。GHTFも、工程を継続的に監視・管理し、品質指標の悪化傾向や工程・製品の変更があれば再バリデーションの必要性を評価して文書化するよう示している。「全数検査」という言葉は、あたかも万全の担保のように響く。
しかし確認できないものは、何回検査しても確認できない。ベテランほど「検査を厚くすれば安心」という発想に傾きがちで、そこにこの罠が口を開けている。検査で守れる工程と、工程能力の実証でしか守れない工程を、経験者こそ冷静に見分けねばならない。
工程出力を後から十分に検証できないからこそ、その工程が、定めた条件の下で要求を満たす結果を一貫して生み出せることを、客観的証拠によって実証する必要がある。バリデーションとは、検査だけでは届かない品質上の不確かさを、工程能力の実証と継続的な監視によって管理する営みなのである。
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