市販後監視(PMS)とPSUR
「承認さえ下りれば、あとは製品を売っていくだけだ」ーーこの感覚のまま市販後を迎える企業は、遅かれ早かれつまずく。医療機器の安全性は、出荷した瞬間に確定するわけではない。むしろ、市販前の評価では捉えきれなかった課題が、多様な患者、多様な使い手のもとで使われる中で、初めて見えてくることもある。
それを継続的に見張るのが、市販後監視、PMS(Post-Market Surveillance)である。PMSとは、市場に出た製品の安全性・性能に関する情報を、能動的・体系的に集め、分析し、必要なら対策につなげる一連の活動を指す。苦情、不具合報告、文献、類似品の情報ーーあらゆる入口から情報を吸い上げ、リスクが想定内に収まっているかを確かめ続ける。
そしてEU MDRでは、クラスIIa・IIb・IIIの機器の製造業者に、PMSデータの分析結果と結論、実施した予防・是正措置などをまとめたPSUR(定期的安全性最新報告書、Periodic Safety Update Report)の作成が求められる。更新はクラスIIaでは必要に応じ、かつ少なくとも2年ごと、クラスIIb・IIIでは少なくとも年1回である。クラスIでは、PSURではなくPMS報告書を作成し、必要に応じて更新する。
PSURは、安全性・性能とベネフィット・リスクのバランスを継続的に見直す、製品の健康診断書のようなものだ。大切なのは、PMSが受け身の活動だけでは成り立たないという点だ。苦情への対応は重要だが、苦情が来るのを待つだけでは十分ではない。
MDRが求めるのは、能動的・体系的に情報を取りにいき、分析結果をリスクマネジメントや臨床評価へ反映させる循環である。このうち、市販後の臨床データを収集・評価して臨床評価を更新する仕組みがPMCF(市販後臨床フォローアップ)だ。PMS計画には、PMCF計画か、PMCFを適用しない理由を示すことになっている。
市販前に立てたリスクの見立てが、現実の使用でも妥当かを確かめ続ける。この循環が、異変の芽を早く見つけ、適切に手を打つことを支える。
ここで思い出したいのが、承認やCEマーキングは品質保証の終点ではない、という原則である。「審査を通ること」だけに意識が向くと、その後に続く責任を見失いやすい。PMSとPSURは、市販後も安全性・性能を確かめ続けるための仕組みだ。
市販前に必要な安全性・性能を確認したうえで、出した後も見張り続け、異変を早く捉えて手を打つ。市販前と市販後を切り離さず、製品のライフサイクル全体に責任を持つことが、品質保証には欠かせない。通った後も、本番は続くのである。
見落とされがちだが、市販後に集めた情報は、集めただけでは意味がない。分析し、必要なら設計変更や注意喚起、時にはリコールという行動へつなげて、はじめてPMSは実効性を持つ。情報を溜め込むだけの「記録のためのPMS」は、査察でも市場でも役に立たない。集める、読む、動くーーこの三つが揃って、市販後監視は生きた仕組みになる。

もう一つ、実務で効く戒めがある。「苦情ゼロ」という数字だけで安心してはならない、という点だ。苦情件数は、販売数量や使用頻度、観察期間、情報の集まり方と併せて評価する必要がある。
ゼロというだけでは、安全性が高いとも、情報収集に不備があるとも断定できない。大切なのは、利用者や販売業者から情報が届く経路を整え、苦情以外の情報も能動的に集めることだ。不具合を報告した人を責めるのではなく、報告しやすい文化を育てる。その姿勢が、市販後監視を支えるのである。
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