滅菌バリデーションの概要
「滅菌済み」と書かれた包装を見て、中の製品には菌が一匹もいない、と思っていないだろうか。実は、滅菌とは「菌がゼロだと証明された状態」ではない。滅菌バリデーションを理解する第一歩は、この直感を手放すことにある。
そもそも、ある製品が完全に無菌かどうかを直接確かめる方法はない。確かめようとすれば包装を開けて培養するしかなく、確かめた製品はもう出荷できない。これまでにも解説してきた通り、バリデーションとベリフィケーションの関係そのままで、滅菌は結果を全数検証できない典型的な工程なのだ。
だから無菌性は、検査で確かめるのではなく、工程を作り込んで保証するしかない。そこで使われるのが、無菌性保証レベル(SAL:Sterility Assurance Level)という考え方である。SALとは、滅菌後の製品に生きた菌が残っている確率を表す。
一般に求められる10のマイナス6乗は「製品百万個につき、無菌でないものが一個以下」という水準だ。ゼロではない。無菌とは、絶対の無ではなく、限りなくゼロに近づけた確率として保証されるものなのである。

この確率で保証するという発想が、滅菌バリデーションの肝である。実際の製品に付いている菌は、通常ごくわずかだ。にもかかわらず、その菌の数をはるかに上回る負荷をかけて滅菌条件を検証するーーいわばやりすぎの条件で確かめる(オーバーキル法などと呼ぶ)。
なぜそこまでするのか。結果を一つひとつ確認できない以上、条件そのものに余裕を持たせ、どんなばらつきがあっても菌を殺しきれる、と示すほかないからだ。検証できないものは、過程を厚く保証する。
この原則が、滅菌ほど鮮明に現れる工程はない。実務で誤解されやすいのが、日々の生産で毎回この大がかりな検証をしている、という思い込みだ。無菌性の保証を担うのは、あくまで最初に確立したバリデーションであって、日常の管理は、その確立した条件が維持されているかーー温度、ガス濃度、線量、時間といったパラメータが範囲内かーーを監視することにある。
条件が保たれている限り、結果は保証される。だから条件からの逸脱は、無菌性そのものが崩れたことを意味しかねず、重く扱う。しかも包装が破れれば、どれほど完璧に滅菌しても無菌は保てない。
滅菌と包装、輸送や保管まで含めて、初めて「患者の手元に届くまで無菌」が成り立つ。滅菌の方法は一つではない。ガス(酸化エチレン、ISO 11135)、放射線、高圧蒸気など、製品の材質や耐熱性で選ぶが、いずれも「その方法で、その製品が、狙ったSALに到達すること」を方法ごとに妥当性確認しなければならない。
「滅菌した」という事実に意味があるのではない。「この条件なら必ず無菌になる」と、確率で言い切れることーーそれが滅菌バリデーションの到達点なのである。
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