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ワンポイント

QCとは何か

QCとはクオリティコントロール(品質管理)である。果たして本当にコントロールが行われているだろうか。筆者の経験では、多くの企業ではチェックばかり繰り返されている。であればクオリティチェックと言えばよいのではないか。なぜクオリティコントロールというのだろうか。これが最初の疑問である。

チェックばかりの「品質管理」

帳票の右と左を指で押さえながら「合っている、合っている、あ、間違い」と照合して修正する。筆者が訪れる多くの製薬企業や医療機器企業で、「品質管理」と呼ばれている光景である。記録を一枚ずつ照合し、間違いを見つけては直していく。

ダブルチェック、トリプルチェックと、確認した人の印が増えていく記録も珍しくない。それでも同じ間違いがなくならないのは、チェックが間違いの発生そのものを止める仕組みになっていないからである。見つけて直すだけで終われば、次のロット(同じ条件でまとめて製造した単位)でも同じ間違いが起き、明日もまた同じように指で押さえて照合し続けることになる。チェックはあくまで手段なのである。

コントロールとは「標準に戻す」こと

コントロールとは一体何だろうか。コントロールとは、標準からずれそうになったり、ずれたりしたプロセスを標準に戻す活動のことである。
わかりやすく言えば野球の例がある。野球でピッチャーがストライクゾーンを狙って投球をする。これをコントロールという。QCとは、品質のストライクゾーンを目指してプロセスをコントロールすることである。

ピッチャーは制球が乱れれば、フォームや力の入れ方を修正して、再びゾーンに投げ込もうとする。投げた結果を見て、次の一球に反映させる。この繰り返しがコントロールである。

品質管理の大家ジョセフ・M・ジュランは、1986年に発表した「品質のトリロジー(三部作)」で、品質管理を「操業中に品質目標を達成するためのプロセス」と位置づけた。そこでは、工程が突発的に悪化したときに原因を突き止めて是正し、管理限界の範囲に戻す姿が描かれている。まさに「標準に戻す」活動である。

ジュランは、品質管理を財務の世界の原価管理にたとえている。また、計画の不備から工程に組み込まれた慢性的なロスは、品質管理だけでは取り除けず、品質改善という別のプロセスが必要だとした。コントロールの役割は、まず決めた水準を守ることなのである。なお、品質マネジメントの国際規格ISO 9000の2015年版(日本ではJIS Q 9000:2015)は、品質管理を「品質要求事項を満たすことに焦点を合わせた品質マネジメントの一部」と定義している。

ストライクゾーンは先に決めておく

その品質のストライクゾーンとは一体どこに記載されているだろうか。その品質のコントロール、つまり品質のストライクゾーンは、SOP(標準業務手順書)に記載されている。

ピッチャーがコントロールするには、ストライクゾーンが決まっていなければならない。ゾーンがあいまいなら、投げた球がストライクかボールかさえ判定できない。人によってゾーンが違えば、同じ球をある人はストライク、別の人はボールと判定することになる。

品質管理でも、品質のストライクゾーンをあらかじめ定めておく必要がある。そのストライクゾーンに入るように手順を書き、製造指図書(製造の条件や手順を指示する文書)を作るのである。その通りに作業すれば、品質はゾーンに入るはずである。

ストライクゾーンは、狭すぎても広すぎても困る。狭すぎれば、どれほど腕の良いピッチャーでもゾーンに入れられない。広すぎれば、どこへ投げてもストライクになり、コントロールする意味がなくなる。

ゾーンの幅は、製品に求められる品質と、工程が実際に出せる実力の両方を考えて決める必要がある。また、決めたゾーンは、作業する人全員が同じように理解していなければならない。

「監督」と「ピッチャー」は違う

ここで注意すべきことがある。日本語では「管理」という言葉を使うが、英語では2通りに分かれる。一つはコントロール、もう一つはマネジメントである。
この違いは、マネジメントは野球でいうところの監督に相当し、コントロールはピッチャーに相当する。マネジメントは各部門の部課長クラスの管理職が現状を見て指示を出すことである。一方で、現場の者が自身の作業をしながら、SOPに従ってコントロールし、ストライクゾーンを狙うのがQC(コントロール)に相当する。つまり、全員がピッチャーの立場にいるのである。

英語でも、野球の監督はマネージャー(manager)と呼ばれる。監督は試合の状況を見て、選手の起用や作戦を指示する。いわば現状を見たうえでのレビューであり、後から判断することが多い。もちろん監督の仕事は欠かせないが、どれほど優れた監督でも、マウンドで球を投げるのはピッチャーである。

一方、ピッチャーのコントロールは意図して行うものである。「ここで三振を取る」と狙いを定め、その狙いどおりに球を投げる。品質管理も同じで、狙いを定めて意図的に行わなければならない。

だから「結果的に品質が良かった」というのは、品質管理をしたことにはならない。たまたまストライクが入っただけのピッチャーを、制球力のあるピッチャーとは呼ばないのと同じである。

きちんと差し戻すこともコントロールである

品質の標準(ストライクゾーン)は、標準業務手順書(SOP:Standard Operating Procedure)または、GMPの製造所などの場合は製品標準書に記載されている。そのストライクゾーンを狙って業務をコントロールすることが、クオリティコントロールである。
例を挙げて説明する。ある外注業者に1,000個のデータ入力を依頼したとする。契約において、0.3%のエラーまでなら受領すると約束した。データ入力を終えたデータを受け取り、チェックを始めると、1個、2個、3個、4個とエラーが見つかった。
これで契約で取り決めた0.3%のエラーを超えてしまった場合、「0.3%のエラーを超えましたのでこの納品は受け取れません」と言って、当該業者に差し戻す。
このとき重要なことがある。どこにエラーがあったか教えてはならない。なぜなら、もしエラーの箇所を教えてしまうと、その業者は指摘されたエラーの箇所だけを修正して再度提出するからである。そうすると、追加の残りのチェックをまた行う必要が生じる。
また、何個エラーがあったかも教えてはならない。個数を伝えると、その数だけエラーを修正したら再提出されるだろう。そうなると、また残りのエラーチェックをする必要が生じる。
これは決して良い状態ではない。後段のプロセスで、後のプロセスの人が当事者に成り代わってデータをチェックし、さらに修正までするというやり方では、いつまでたってもデータの品質が向上しないというジレンマに陥る。
これは極めて重要なことである。QCで必要なことはチェックをするだけではなく、きちんと差し戻すことが重要である。いい加減な作業や品質の悪い作業をすると差し戻されるという事実が、一つの抑止力になる。その結果、当事者はデータの品質管理・品質保証により注力するようになる。
ここで誤解しないでほしいのは、チェックはQCではないと言っているわけではないことである。ただ、チェックだけではQCにならないということである。きちんとコントロールをしなければならない。

前述の例のように、標準からずれたものに対しては、プロセスに戻して標準に合うようになるまで次のプロセスに進めないことが、クオリティコントロールである。これは極めて重要なプロセスである。
別の例も挙げよう。あるクッキー工場で製造指図書に、クッキーは170℃±5℃で焼くと記載されているとする。バーナーの担当者は、175度を超えそうになると火力を下げ、165度を下回りそうになると火力を上げる。
なぜなら、175度を超えると焦げてしまい、165度を下回ると半生になってしまうからである。つまり、170度±5度という指図書に記載された温度範囲で焼くことで、あらかじめ定めた美味しいクッキーが焼き上がるのである。
これがクオリティコントロールである。つまり、SOPに従って業務を行えば、必ずあらかじめ定めた仕様で、あらかじめ定めた品質で製品が製造できるはずである。それでも正しく製品の品質が仕様を満たさなかったり、サービスが提供できなかったりする場合は、SOPが間違っている、標準が間違っているということになる。

チェックの結果は、手順や指図書といった標準にまでさかのぼって生かされて初めてコントロールになるのである。

ずれそうな兆しの段階で戻す

ゾーンの端ぎりぎりに入る球ばかりでは、少し調子を崩しただけでボールになる。ずれてから戻すより、ずれそうな兆しの段階で戻すほうが、品質は安定する。前述のクッキー工場の担当者が、温度範囲を外れる前の「超えそう」「下回りそう」な段階で火力を調整しているのも、この考え方である。チェックの結果は、この兆しを見つけるためにも使えるのである。

製造の現場では、製品の合否を決める規格とは別に、その内側に工程を管理するための目安を設けることがある。目安を外れた段階で工程を調整すれば、製品が規格を外れる前に手を打てる。ストライクゾーンの内側に、もう一回り小さな狙いの枠を持つようなものである。

製薬企業に製品を納める企業にとって

この考え方は、製薬企業に機器やソフトウェアを納める企業にもそのまま当てはまる。出荷前の検査で不良品を取り除くだけなら、それはチェックである。検査で見つかったずれを工程に戻し、ずれが起きにくいように手順や条件を見直して、初めてコントロールと言える。

例えば、組立工程でねじの締め付け不良が見つかったとしよう。不良品を外して良品だけを出荷するのはチェックである。締め付けの工具や手順を見直し、標準から外れそうな段階で気づいて戻せるようにするのがコントロールである。

ソフトウェアでも、バグを直すだけでなく、そのバグを生んだ工程を見直してこそコントロールと言える。筆者の経験では、製薬企業が取引先を評価するとき、検査をしているかどうかだけでなく、基準からずれたときにどう工程を戻したかを確認することが多い。チェックの記録は、コントロールの証拠として使われて初めて価値を持つのである。

まとめ

  • チェックは品質管理の重要な工程だが、チェックだけではコントロールにならない
  • コントロールとは、標準からずれそうになった(ずれた)プロセスを標準に戻す活動である
  • 品質のストライクゾーン(SOP・製品標準書)を先に定め、意図して狙う。「結果的に良かった」は品質管理ではない
  • 標準からずれたものは差し戻し、標準に合うまで次のプロセスに進めない。それでも品質が満たせなければ標準自体を見直す

自社の品質管理は、ストライクゾーンを狙って投げるピッチャーになっているだろうか。投げ終わった球を後から数えるだけになっていないか、一度振り返ってみたい。

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