教育記録とスキルマップをつなげて、力量を「見える化」する手順
例えば、教育訓練の実施記録はきちんと残っているのに、「この検査を任せられるのは誰か」と聞かれると、品質保証の担当者に確かめないと答えられない。力量の情報が、記録ではなく人の頭の中にある状態である。
QMS省令 第23条は、製品の品質に影響を及ぼす業務に従事する者に必要な能力を明確にすること(第1号)と、教育訓練・技能・経験の記録を作成し保管すること(第5号)を求めている。GMP省令 第19条第3号も、教育訓練の実施記録の作成と保管を求める。必要な力量の定義と、一人ひとりの評価の記録を対応づけておくと、「この人はこの業務を行う力量がある」という根拠を示しやすくなる。スキルマップはそのための方法の一つであり、省令が様式を指定しているわけではない。
(本稿では「力量」を、省令の「能力」とほぼ同じ意味で使う。)
手順1:業務を洗い出す
まず、製品の品質に影響する業務を一覧にする。部署ごとに、「受入検査」「工程内検査の判定」「文書の照査」「苦情の一次評価」のように、任せる・任せないを判断する単位で書き出す。単位が大きすぎると(例:「品質保証業務」)、必要な力量や不足を判断しにくくなる。
手順2:業務ごとに必要な力量を決める
それぞれの業務に、必要な知識・技能・経験と、その根拠になる教育(手順書の教育、外部研修、資格など)を決める。ここで決めた内容が、教育計画の元になる。
手順3:レベルを決める
力量の程度を段階で表す。段階の数や中身は自社の業務に合わせて決めればよい。本稿では、次の4段階の例を示す。
- 0:未経験
- 1:指導のもとで行える
- 2:一人で行える
- 3:他者を指導できる
段階ごとの判断基準(何を確かめたら「一人で行える」とするか)を決めておかないと、評価する人によってばらつく。
手順4:いまの状態を評価し、スキルマップにする
人を縦、業務を横に並べ、交わるところにレベルを書き入れる。これがスキルマップ(力量表)である。作ってみると、次のようなことを把握しやすくなる。
- 行える人が限られている業務(代わりの人がいなければ、その人が不在のときに業務が止まるおそれがある)
- 必要な力量に届いていない人と業務
- 指導できる人がいない業務
手順5:差への対策を決め、評価の記録とつなげる
必要なレベルと、いまのレベルの差に対して、対策を選ぶ。教育訓練だけでなく、経験を積ませる、指導者をつける、配置を見直すといった措置もある(QMS省令 第23条第2号は「教育訓練その他の措置」としている)。
対策の後は、その人がその業務を行えるかを評価し(記事3の「業務を任せる前」の確認)、結果に基づいて必要な場合にレベルを更新する。教育訓練そのものの実効性の評価と、いまの力量の判定は目的が違うので、記録も分けておくとよい。スキルマップの各マスから、その根拠になる教育記録・評価の記録をたどれるようにしておくと、監査で「この人が一人で判定してよい根拠は」と問われたときに、根拠を示しやすくなる。
更新のタイミングを決める
スキルマップは一度作って終わりではない。例えば次のときに見直す。
- 手順書の改訂(改訂の影響を評価し、必要な力量や教育が変わる場合に更新する)
- 人の異動・新規配属
- 新しい設備・製品・業務の追加
- 定期の見直し(周期は業務に応じて自社で決める。例えば年1回など。変更時の見直しと組み合わせる)
とくに手順書の改訂は、文書管理と教育訓練をつなぐ場面である。改訂のたびに影響を受ける業務と人をスキルマップから特定し、必要な場合に教育を割り当てる——この流れを決め、運用と更新の状況を定期に確かめることで、力量の情報を最新に保ちやすくなる。
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