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107人の死が生んだFDC法

1937年サルファニルアミド事件

はじめにーー現行法の誕生日

FDAの活動の根拠であるFDC法(連邦食品・医薬品・化粧品法)は1938年に成立した。今日まで続く米国薬事規制の背骨である。この法律は、平時の議論からじっくり生まれたのではない。前年に起きた一つの薬害事件ーーわずか数週間で100人以上、その多くが子どもの命を奪った「エリキシール・サルファニルアミド事件」への痛切な反省から、一気に成立へと押し出されたのである。

特効薬ブームの中で起きた悲劇

1930年代半ば、世界初の本格的な抗菌薬であるサルファ剤(サルファニルアミド)が登場し、連鎖球菌感染症の特効薬として爆発的な需要を呼んでいた。1937年、米国テネシー州の製薬会社S.E.マッセンギル社は、「飲みやすい液剤があれば売れる」という営業の声に応え、サルファニルアミドを液体に溶かした製品の開発を主任化学者に指示した。問題は溶媒であった。

サルファニルアミドは水にもアルコールにも溶けにくい。化学者が選んだのはジエチレングリコールである。今日では自動車の不凍液の成分として知られる、甘い味のする有毒物質だ。

当時その毒性は文献上知られ始めていたが、同社は動物実験も毒性試験も一切行わなかった。行ったのは、香りと味と外観の確認だけである。ラズベリー風味の「エリキシール・サルファニルアミド」は1937年9月に出荷され、全米へ流通した。

まもなく各地の医師から死亡報告が相次いだ。腎不全である。犠牲者は最終的に107人にのぼり、その多くはのどの感染症を治すためにこの薬を飲んだ子どもたちであった。担当化学者は事件後に自ら命を絶っている。

「回収の根拠は毒性ではなかった」ーー旧法の限界

この事件は、1906年法の限界を残酷なまでに露呈させた。当時の法律には、販売前に医薬品の安全性を確認する仕組みがなかった。毒性試験をせずに新製品を売り出しても、それ自体は違法ではなかったのである。

FDAが総力を挙げて製品回収に走った際、法的根拠にできたのは、なんと「不当表示」であった。「エリキシール(Elixir)」とはアルコールを含む製剤を指す薬学用語であり、この製品はアルコールを含んでいないから表示が虚偽であるーーこの技術的な違反を突破口に、FDAは全米で在庫を押収した。もし製品名が「ソリューション(溶液)」であったなら、差し押さえる根拠すらなかったと言われる。

回収作戦そのものは、当時のFDAの総力戦であった。全職員の大半にあたる査察官・化学者が動員され、出荷記録を頼りに卸、薬局、医師、行商のセールスマンまで一人ひとり追跡し、瓶単位で製品を回収した。ラジオと新聞は連日警告を流し、田舎の一軒家に売られた一本を探して捜査官が山道を走った。

出荷された240ガロンのうち、最終的に大部分が回収されたが、それでも107人の命は戻らなかった。そして107人の死に対して同社に科されたのは、表示違反に対する罰金2万6,100ドルのみであった。世論の怒りは頂点に達した。

1938年FDC法ーー安全性の事前証明という大転換

翌1938年、連邦食品・医薬品・化粧品法(FDC法)が成立した。この法律の柱は次のとおりである。

  • 食品は食べて安全であり、衛生的条件でつくられていること。
  • 医薬品と医療機器は、その目的の用途に対して安全であること。
  • 化粧品は安全であり、適切な成分からつくられること。
  • 表示と包装は真実の情報を与えるものであり、虚偽であってはならないこと。

化粧品と医療機器が連邦規制の対象に加わったのも、この法律が最初である。

最大の転換は、新薬の販売前届出制度の導入である。メーカーは販売開始前に安全性データをFDAへ提出しなければならず、FDAが異議を唱えれば販売できない。「売ってから問題が起きたら取り締まる」から「売る前に安全性を確かめさせる」への転換であり、今日の承認制度の原型がここに生まれた。

工場への立入検査権限もこの法律で整備されていく。その後、1951年のダーラム・ハンフリー修正により、医師の処方箋を要する医薬品(Rx)と大衆薬(OTC)の区分が法制化され、現在に続く医薬品流通の枠組みが整った。

過去の話ではないーー繰り返されるジエチレングリコール禍

サルファニルアミド事件を「昔の話」と片付けることはできない。ジエチレングリコールによる薬害は、その後も世界で繰り返されているからである。グリセリンや プロピレングリコールより安価なこの物質が、原料偽装や供給網の管理不備によってシロップ剤に混入する事件は、1990年代のハイチ、2000年代のパナマ、そして2022年から2023年にかけてはガンビアやインドネシアなどで再発し、いずれも多数の小児の命を奪った。

WHOは国際的な警告を繰り返している。85年前に107人の犠牲で学んだはずの教訓ーー原材料の同一性確認、サプライヤー管理、出荷前試験ーーは、GMPの仕組みが機能して初めて守られる。サプライチェーンがグローバル化した現代こそ、この事件は現役の教材なのである。

おわりにーーそれでも残された穴

FDC法により、安全性は事前証明の対象となった。しかし「効くことの証明」は、まだ要求されていなかった。安全でありさえすれば、効かない薬でも売れたのである。

この穴が埋まるのは、それから四半世紀後、世界を震撼させたもう一つの薬害ーーサリドマイドの悲劇を経てのことである。次回では、FDA史上最も有名な審査官の物語から始める。

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