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日本の製薬企業はなぜこんなに多いのか

富山の薬売りと製販分離

国内の大手銀行はいわゆる3メガバンクに集約され、乗用車メーカーも数えるほどしかない。ところが医薬品の世界では、製造販売業者と製造業者を合わせると、千を超える事業者が活動している。なぜ日本には、これほど多くの製薬企業があるのだろうか。本稿では、その背景を歴史と制度の両面から考える。

数え方で変わる「製薬企業の数」

筆者は講演で「日本には製薬企業が約2,000社ある」と紹介してきた。家庭内手工業のような小さな会社まで含めての話である。ただし、何をもって「製薬企業」と数えるかで数字は大きく変わる。ここでは、確認できた公的な統計の数字を示しておきたい。

厚生労働省の薬事工業生産動態統計調査によると、2020年8月に報告のあった医薬品の製造販売業者は960、製造のあった製造業者は1,069であった。製造業者のうち390は、他社から受託した製造を行っていた。製造販売業者と製造業者の両方の許可を持つ会社も多いので、単純に足し算はできない。それでも、数百から千の単位の事業者がいることは確かである。

自動車や銀行と比べると、その多さは際立っている。都道府県別に見ると、製造販売業者は東京都が300で最も多く、大阪府122、富山県55、奈良県50と続く。製造業者は大阪府73、富山県69、兵庫県58の順である。受託製造のあった製造業者は富山県が40で、全国で最も多い。本社が集まる大都市に並んで、富山や奈良が上位にいることが目を引く。

江戸時代から続く売薬の産地

多さの第一の背景は歴史である。日本には江戸時代から、各地に売薬(ばいやく)の産地があった。代表格は富山である。

富山藩2代藩主の前田正甫が薬に力を入れ、胃腸薬の「反魂丹(はんごんたん)」が広く知られるようになった。1690年に江戸城で腹痛を起こした大名に正甫が反魂丹を与え、たちまち治ったという逸話は有名である。ただし、この話には史料の裏付けがないとされる。

富山の売薬は「先用後利(せんようこうり)」の商法で全国に広がった。家庭に薬を預け、次に訪れたときに使った分だけ代金を受け取る仕組みである。この配置による販売は、一般用医薬品を配置により販売する「配置販売業」の許可として、今も薬機法に残っている。

富山のほかにも、大和(奈良)、近江(滋賀)、そして九州の田代(現在の佐賀県鳥栖市周辺)などが売薬で知られた。田代売薬の系統を引く企業としては、久光製薬が知られている。業界団体の日本製薬団体連合会(日薬連)は、業態別団体14と地域別団体14で構成される。

その地域別団体に富山県、奈良県、滋賀県、佐賀県の団体が名を連ねているのは、こうした歴史の反映と言えるだろう。筆者は講演で「富山には受託製造の会社が多い」と話しているが、先の統計もそれを裏付けている。売薬の産地で培われた技術と人材が、今は他社の医薬品を作る力として生きているのだと筆者は考える。

すべての会社が新薬メーカーではない

第二の背景は、会社ごとの役割の違いである。数が多いといっても、すべての会社が新薬を研究開発しているわけではない。生薬や漢方製剤を作る会社、家庭薬を作る会社、ジェネリック医薬品を作る会社、他社から製造だけを請け負う会社など、業態はさまざまである。

ジェネリック医薬品(後発医薬品)とは、新薬の特許期間などが終わった後に、同じ有効成分で作られる医薬品である。日薬連の業態別団体にも、日本漢方生薬製剤協会、日本家庭薬協会、全国配置薬協会、医薬品製剤受託協会などが並ぶ。また、市場に出した製品の苦情処理や回収、副作用情報の収集と評価には、専門の組織と人材が必要である。すべての会社が、こうした機能を自前で持てるわけではない。

製販分離が受託製造を後押しした

第三の背景が制度である。2005年(平成17年)4月に施行された改正薬事法で、製造販売業と製造業が別々の許可になった。業界ではこれを製販分離と呼ぶ。

改正前は、製造業者が自ら製造する品目について承認を受けるのが基本であった。医薬品の専門誌は、この改正を「製造承認から販売承認へ」の転換と表現している。自らの責任で医薬品を市場に出す製造販売業者が承認を受け、製造は全面的に他社へ委託できるようになったのである。

この結果、製造に特化した受託製造企業が事業を広げやすくなった。先の統計で、製造業者の3分の1以上が受託製造を行っていたのは、その表れだと筆者は考える。委託する側から見れば、自社で工場を持たずに製品を供給できる。

受託する側から見れば、複数の会社から製造を請け負い、設備を効率よく使える。一方、苦情や安全性情報を扱う力を持つ会社は、製造販売業者として市場への責任を引き受ける。役割を分担することで、規模の小さな会社も、製薬の仕組みの中で自分の持ち場を持てるようになった。

ただし、委託する側とされる側の間で情報が途切れれば、品質の問題は見えにくくなる。製造販売業者が製造業者を管理監督する義務を負うのは、そのためである。

取引先は大手だけではない

製薬企業に機器やサービスを納める企業にとって、この構造は大切な意味を持つ。顧客は大手の新薬メーカーだけではないからである。地方の中小製薬企業や受託製造企業も、医薬品を作る以上、GMP省令(医薬品の製造管理及び品質管理の基準)に基づく管理を求められる。受託製造企業は複数の顧客の製品を同じ工場で作ることが多く、設備の洗浄や交叉汚染の防止、顧客ごとの取決めの管理など、求められる管理はむしろ複雑になる。

2020年から2021年にかけては、小林化工や日医工など、承認書と異なる製造などを理由とするジェネリック医薬品メーカーへの業務停止命令が相次いだ。品質を守る力は、会社の規模や知名度とは別に問われるのである。筆者の経験では、規模の小さな会社ほど、品質保証の担当者が多くの業務を兼ねている。

機器の導入時に、校正や記録の管理まで含めてわかりやすく説明できるかどうかが、選ばれる理由になる。九州にも製薬の事業者は少なくない。先の統計では、製造のあった製造業者が福岡県に36、熊本県に17、佐賀県に12あった。

田代売薬の流れをくむ地域も含め、身近な場所に製薬の現場があるのである。数が多いということは、それだけ多様な品質保証の現場があるということでもある。こうした会社の品質保証部門は、GMP省令の要求を自社の規模に合わせて実行する工夫を重ねている。

大手向けの提案をそのまま持ち込んでも、うまくいくとは限らない。顧客の規模や業態を理解し、それに合った提案をすることが、顧客の品質保証を支えることにつながる。

まとめ

  • 日本の製薬関連の事業者は、統計の数え方にもよるが、千の単位にのぼる
  • 背景には、富山・奈良・滋賀・佐賀などに江戸時代から続く売薬の歴史がある
  • 2005年の製販分離で製造の全面委託が可能になり、受託製造という業態が広がった

製薬企業の多さは、日本の薬の歴史と制度が重なり合って生まれたものである。取引先の成り立ちに目を向けると、その会社が本当に必要としているものも見えてくるはずである。

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