FDA医療機器規制の歴史
医療機器修正法以前の規制
医薬品は1938年に安全性、1962年に有効性の事前証明が義務づけられた。一方、1938年のFD&C法は医療機器を規制対象に加えたものの、その中身は不良品と不当表示の禁止だけであった。販売前にFDAの審査を受ける仕組みは存在せず、心臓ペースメーカーのような生命維持機器ですら、届出なしに販売できたのである。
ダルコン・シールドの悲劇と1976年医療機器修正法
この空白を埋める引き金となったのは、避妊用子宮内器具(IUD)「ダルコン・シールド」である。1970年代前半に数百万個が販売されたこの器具は、構造上の欠陥から重篤な骨盤内感染症を多発させ、敗血症性流産による死亡例まで発生させた。医療機器が引き起こした被害としては前例のない規模であり、議会は医療機器規制の抜本強化へ動いた。
1976年5月、医療機器修正法(Medical Device Amendments)が成立した。この法律は、今日の医療機器規制の基本構造をほぼすべて用意したものであり、主な内容は以下の4点である。
- リスクに応じたクラス分類(クラスI/II/III)
- 市販前届出、いわゆる510(k)(既存機器と実質的に同等であることを示して販売する仕組み)
- 高リスク機器に対する市販前承認(PMA)
- FD&C法セクション520(f)に基づき、FDAに医療機器GMPを定める権限を与えたこと
1978年7月21日、FDAは連邦官報(43 FR 31508)で最終規則を発行し、FD&C法のセクション520(f)に基づく医療機器のcGMP要求事項(医療機器GMP)を確立した。当該規則は1978年12月18日に発効し、Part 820の下で成文化された。それ以前の医療機器は医薬品GMPの考え方に依拠していたが、ケミカル由来の医薬品とデバイスである医療機器では規制のあり方が異なるため、独立した規則としたのである。
初代Part 820の限界
ただし、この初代Part 820の中心は、あくまで製造工程の管理・ラベル管理・記録保持といった「工場の中で起きること」であり、設計は規制対象に含まれていなかった。1970年代の医療機器は今日ほどソフトウェアやセンサーが複雑に絡む設計ではなく、製造工程を管理すれば品質は確保できるという感覚がまだ強かったのである。
その結果、1980年代の査察現場には独特のもどかしさがあった。不具合の原因が明らかに初期の設計仕様にあると見立てても、当時のPart 820は設計プロセスを規制対象としていないため、査察官にできるのは製造記録やラベル管理の不備を指摘するところまでであった。規則の届かない場所に、患者被害の根本原因が横たわっていたのである。
医療機器GMPがQSRに変更になった訳
GMPとはGood Manufacturing Practiceの略であり、実践製造規範である。医薬品の場合は、回収事案のほとんどが製造品質に起因し、製造を規制するGMPでほぼカバーできる。ところが、医療機器の場合は、たとえ図面の通り適切に製造したとしても、そもそも設計が間違っていたとすれば、安全な医療機器にはならないのである。
つまり、医療機器の安全性確保のためには、適切な設計管理が必要である訳だ。
医療機器安全法(SMDA)
1978年7月21日に公示されたGMP規則は医療機器の製造および品質管理に対する要件を定めているが、1990年に「医療機器安全法」(Safe Medical Device Act / SMDA)が成立するまではほとんど変更がなかった。SMDAは、機器の回収のうちのかなりの割合が、製造の失敗ではなく製品設計の欠陥に起因するという発見に基づいて法律が変更された訳である。前述のダルコン・シールドもまさに設計欠陥の事例であり、製造の規制だけでは医療機器の安全は守れないというのが、長年の経験が導いた結論であった。
SMDAはGMP規則に設計管理(Design Control)の要件を盛り込むことや外国とのGMP相互認証協定への努力を求めた。この相互認証への取り組みは、後の国際調和路線の伏線となっている。
SMDAにより、FDAは設計管理をcGMP規制に追加する権限を得たのである。 FDAは、SMDAのもとにGMP規則を改正して新しく設計管理規定を加え、同時にGMP規則をできる限り国際基準(ISO9001)に含まれる品質システムの要件に合わせる方針をとった。

医療機器GMPからQSRへ
GMP規則改正の動きは、1990年4月の医療機器GMP諮問委員会の開催から始まった。この年から1995年にかけて、規則立案の事前公示(Advance Notice of Proposed Rulemaking)、一般からコメントを求める規則案の公示、GMP作業原案(Working Draft)の利用と原案に対するコメントを求める公示、GMP公聴会の開催、GMP諮問委員会の開催など、規則改正に向かって各種の手順が進むとともに、機器回収データの分析や国際品質基準などの評価が加わることによって、FDAは医療機器GMP改正を決断した。
SMDAによる変更を実装するために、FDAは足かけ6年の手続きを経て、1996年にPart 820を全面改定し、品質システム規則(QSR:Quality System Regulation)を制定した。
医療機器は30万種類とも60万種類ともいわれる。医療機器GMP規則は、多くの異なるタイプの医療機器に適用しなければならないことから特定の機器に対する製造要件を詳しく規定することよりは、むしろすべての製造業者が守らなければならない大枠を定める方が合理的であると判断した。その趣旨にしたがってFDAは、製造業者の品質要件の達成に柔軟性を与えるため、規則案と作業班原案に変更を加えて最終GMP規則として、1996年10月7日、「品質システム」(QS:Quality System)と呼ぶ新しい規則を公示した(発効は1997年6月1日)。
QSRは、ISO 13485:1996/ISO 9001:1994を基礎にして作成された。QSRは、医療機器の設計、購入、製造、包装、表示、保管、設置およびサービスで用いられる手順とこれらに対して用いられる設備および管理に関する要件を含む。
設計管理の要求事項(§820.30)
設計管理はサブパートC(§820.30)として規定され、設計計画・設計入力・設計出力・設計レビュー・設計検証・設計バリデーション・設計移管・設計変更、そして設計履歴ファイル(DHF)が法的要求事項に位置づけられた。これにより、初代Part 820では規制の届かなかった設計プロセスが、規則の対象に含まれることとなったのである。
QSR制定当時から、FDAはcGMP規制を、その時点で適用される国際規格に含まれる品質管理システムの要求事項と可能な限り調和させることを目指していた。FDAはGHTFおよびISO技術委員会210(TC 210)と緊密に協力した。
規則の定義では、品質(Quality)は安全性や性能を含めて使用適合性(Fitness-for-use)を満たすため機器の能力を支える特徴(Feature)と特質(Characteristic)の総体をいい、QS(Quality System)は品質管理の実施に対する組織構造、責任、手順、プロセスおよび資源をいう。
QSITの導入
QSR施行から約2年後の1999年には、査察手法QSIT(Quality System Inspection Technique)が導入された。QMSを経営管理・設計管理・CAPA・生産工程管理の4大サブシステムに整理して確認するこの手法は、以後27年間にわたり米国医療機器査察の標準であり続けることになる。
QSRからQMSRへ
2022年2月23日、FDAはQSRをISO 13485:2016に整合させる改正案を公表した。QSRをISO 13485:2016と整合させる規制は「Quality Management System Regulations / QMSR」(品質マネジメントシステム規制)と呼ばれる。
QMSRはISO 13485:2016の要求事項を組み込むことにより、ISO 13485:2016と多くの要求を整合させる予定となっている。その一方で、苦情ファイル等の記録の保持に関してISO 13485:2016に追加的要求事項を上乗せしている。
当初、FDAは、QMSRを2023年12月頃までに最終化する予定としていた。 経過措置期間については様々な意見があり、当時は未決定の模様であった。その後、QMSRは2026年2月に施行され、国際調和は一つの到達点を迎えた。
このように、医薬品GMPから派生した医療機器GMPは、設計管理を取り込み、ついには品質マネジメントシステム全体を規制するQSR、そしてQMSRへと進化した。なお、品質システムという発想自体の源流は、軍需産業の規格にある。
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