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GQP関連

工場出荷と市場出荷

「出荷」が二つある日本の仕組み

はじめにーー同じ「出荷」でも意味がまるで違う

「このロット、出荷済みです」– 品質保証の現場でこの報告を受けたとき、それが何を意味するかは、実は一通りではない。日本の医薬品規制には「出荷」が二つあるからである。一つは製造所からの出荷、いわゆる工場出荷。

もう一つは市場への出荷、いわゆる市場出荷である。この二つは判定する人も、根拠となる省令も、判定の観点も異なる。新任の品質担当者が最初につまずき、そして海外のパートナーに最も説明しにくいのが、この二段構えの出荷判定である。本稿では、工場出荷と市場出荷の違いと、なぜ日本がこの仕組みを採るのかを解説する。

工場出荷 — 製造所が「造れた」ことを確認する

一つ目の出荷は、製造所からの出荷である。根拠はGMP省令であり、製造所の品質部門があらかじめ指定した者が、ロットごとに出荷の可否を判定する。確認するのは、製造記録・試験検査記録の照査、規格への適合、逸脱や規格外試験結果(OOS)が適切に処理されたか — 要するに「このロットは、手順どおりに製造され、規格に適合したか」である。

ここで重要なのは、工場出荷はあくまで「製造所から出してよい」という判定にすぎないことである。出荷先は市場ではない。製造販売業者の管理下にある倉庫や、次の工程を担う別の製造所である。つまり工場出荷に合格したロットは、まだ「売ってよい製品」ではなく、「製造所としての仕事を終えた製品」にすぎないのである。

市場出荷 — 製造販売業者が「売ってよい」と決める

二つ目の出荷が、市場への出荷である。根拠はGQP省令に移り、判定者も製造所ではなく製造販売業者の品質保証部門となる。GQP省令は、品質保証責任者(またはその者があらかじめ指定した者)がロットごとに市場への出荷の可否を決定し、その記録を作成することを求めている。

市場出荷判定で見るものは、工場出荷より一段広い。製造所での製造・試験が適切に行われたことの確認に加えて、その製造所がGMP適合状態にあるか、製造や試験で生じた逸脱・変更が品質に影響していないか、承認書の記載と実際の製造方法が一致しているか、安定性モニタリングや苦情など市販後の品質情報に懸念はないか — こうした情報を総合して「この製品を患者の手に届けてよいか」を判断するのである。工場出荷が「造れたか」の確認だとすれば、市場出荷は「売ってよいか」の決定であり、両者は問いそのものが違う。

なぜ二段構えなのか — 製造委託時代の設計思想

この二段構えは、2005年施行の改正薬事法で製造販売業と製造業が分離されたことと表裏一体である。改正により製造の全面委託が可能になり、工場を持たない製造販売業者が、国内外の複数の製造所を使い分けて製品を供給する時代が始まった。そのとき、品質の最終責任が製造所に分散してしまっては、市場に対して誰も責任を負わない構造になりかねない。

そこで制度は、製造所には「造ったことへの責任」(GMP・工場出荷)を、製造販売業者には「市場に出すことへの責任」(GQP・市場出荷)を、それぞれ割り当てた。委託先の製造所が「問題なし」と判定しても、製造販売業者は独自の判断で市場出荷を止めることができるし、止めなければならない場面がある。どれだけ製造を外部化しても、市場への品質責任は製造販売業者から離れないーー本連載で繰り返し登場するこの原則を、ロットごとの実務に落とし込んだ仕組みが、市場出荷判定なのである。

なお、GQP省令は一定の条件の下で、市場出荷の可否の決定を製造業者に行わせることも認めている。ただしその場合も、取決めと基準の整備、結果の報告が前提であり、責任が製造販売業者に残ることに変わりはない。「判定作業は委ねられても、責任は委ねられない」のである。

実務を支えるのは品質取決めと情報の流れ

二段構えの出荷判定が機能するかどうかは、製造所と製造販売業者の間の情報の流れにかかっている。製造所で起きた逸脱、OOS、変更の情報が市場出荷判定者に届かなければ、判定は形式だけのハンコになってしまう。だからこそGQP省令は製造業者等との取決め(品質取決め)を求め、逸脱・変更・品質情報の連絡経路、出荷判定に必要な書類、判定基準をあらかじめ文書で定めさせている。

海外の製造所から輸入する製品では、この構造がいっそう重要になる。外国製造所からの出荷は当然ながら市場出荷ではなく、国内の製造販売業者による市場出荷判定を経て初めて日本市場に流通できる。時差と言語の壁を越えて逸脱情報を確実に入手する仕組みづくりが、輸入品の品質保証の生命線である。

海外との対比 — 二段構えは日本の個性

海外に目を向けると、この二段構えは自明ではない。米国では、21 CFR 211の下でQuality Unit(品質部門)が出荷判定を行う一段構えであり、工場出荷と市場出荷を制度上区別する発想はない。EUでは、QP(Qualified Person)がバッチごとにGMPと販売承認への適合を認証し、この認証をもって市場流通が可能になる。

QPは製造所側に置かれる法定資格者であり、日本のように「製造所の判定」と「販売元の判定」を組織的に分離する構造とは異なる。したがって、海外パートナーとの品質取決め書で「release」とだけ書くのは危険である。それが製造所からのreleaseなのか、日本市場へのreleaseなのか、誰がどの根拠で行うのかを書き分けなければ「先方はQP認証で完結したつもり、日本側は市場出荷判定の資料が届かない」といったすれ違いが現実に起こる。

実務上の落とし穴

最後に、現場で起こりがちな誤解を挙げておく。

  1. 第一に、「工場出荷済み=販売可能」という誤解である。
    市場出荷判定前の製品は、製造販売業者の管理下で保管・移送はできても、市場に流通させてはならない。物流のスピードが上がった今日、判定前の製品が誤って出荷される事故は依然として回収事例の一角を占める。
  2. 第二に、判定記録の軽視である。
    市場出荷判定は「誰が・いつ・何を確認して・可と決定したか」が記録されて初めて成立する行為であり、判定者の指定が文書化されていない、確認資料が特定できないといった状態は、GQP調査での典型的な指摘事項である。
  3. 第三に、情報の遅延である。
    製造所側の逸脱処理が完了する前に市場出荷判定だけが先行すれば、判定の前提が崩れる。
    急ぐときほど、二つの出荷の順序を崩さないことが肝要である。

おわりに

工場出荷は「造れた」ことの確認、市場出荷は「売ってよい」ことの決定。この二段構えは、製造委託の時代に市場への責任の所在を明確にするための、日本の制度設計の要である。二つの「出荷」を正しく区別して語れること — それは品質保証担当者の基本動作であると同時に、海外に日本の品質保証体制を説明する際の急所でもある。

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