「承認」と「許可」
二本立てで初めて売れる日本固有の制度
はじめにーー「アプルーバルは取れましたか?」の落とし穴
「日本での承認は取れた。すぐ売れるね」ーー海外本社のこの一言に、日本法人の薬事担当者が頭を抱える。
日本では、製品の「承認」を取っただけでは医薬品を売ることができない。会社としての「許可」が別に必要だからである。承認と許可。
日本の薬事制度はこの二本立てで組み上がっており、両方が揃って初めて製品を上市できる。ところが英語ではどちらもapprovalやlicenseと訳されがちで、この構造は海外に驚くほど伝わらない。本稿では、日本固有ともいえるこの二本立て制度を整理する。
「承認」とはーーモノ(品目)に対するお墨付き
製造販売承認(薬機法第14条)は、個々の品目、つまり「モノ」に対する処分である。この製品は品質・有効性・安全性の観点から医薬品として世に出してよいーー国(審査実務はPMDA)がそう認めるのが承認であり、品目ごとに承認書が交付される。承認書には名称、成分・分量、製造方法、用法・用量、効能・効果、規格及び試験方法、製造所などが記載され、以後、企業はこの承認書のとおりに製造・品質管理を行う義務を負う。
別回で詳しく取り上げる「一変・軽微変更届」は、この承認書の記載を変更する手続きである。重要なのは、承認は製造販売業者に対して与えられるという点である。つまり承認を受けるには、その前提として次に述べる「許可」を持っていなければならない。
「許可」とはーーヒト・組織(業)に対するお墨付き
一方の許可は、品目とは無関係に「業」すなわち事業者の体制に対する処分である。医薬品を市場に出す事業を営むための製造販売業許可(第12条)、製造行為を行うための製造業許可(第13条)がその代表で、いずれも5年ごとの更新制である。製造販売業許可の要件は、モノの良し悪しではなく体制である。
総括製造販売責任者・品質保証責任者・安全管理責任者のいわゆる三役を置き、GQP省令(品質管理)とGVP省令(製造販売後安全管理)に適合する仕組みを備えているか。製造業許可であれば、構造設備が基準に適合し、管理者が置かれているか。審査するのは主として都道府県であり、品目の承認審査(国・PMDA)とは主体も観点も異なる。
二本立ての意味ーー「良いモノ」と「まともな組織」は別の問題
なぜ二本立てなのか。制度の思想はこう整理できる。どれほど優れた製品でも、品質保証や安全管理の体制を持たない組織が売れば、市販後の品質問題や副作用情報への対応が破綻する。
逆に、立派な体制を持つ組織でも、個々の製品の品質・有効性・安全性は品目ごとに確かめなければ分からない。「モノの審査」と「組織の審査」は別の問題であり、別の物差しで見るーーこれが承認と許可を分ける理由である。品目側の規制は、実際にはリスクに応じて承認・認証・届出の三段階があり(後発医薬品や医療機器・体外診断用医薬品では第三者認証や届出の仕組みが活躍する)、業側にも許可のほか登録(外国製造業者登録など)がある。だが骨格はシンプルで「品目のお墨付き」と「業のお墨付き」の掛け算で市場アクセスが決まる、と覚えておけばよい。
言葉の成り立ちーー「許可」は禁止の解除である
行政法の言葉づかいを少し借りると、この二つの性格の違いはさらに鮮明になる。「許可」とは、本来は自由であるはずの活動を、公益上の理由からいったん法律で一律に禁止しておき、要件を満たした者についてその禁止を解除する行為をいう。医薬品を売る商売も本来は自由な経済活動だが、保健衛生上の危害を防ぐため薬機法が一律に禁じ、体制の整った者にだけ扉を開けるーーこれが業許可の構造である。
だからこそ、無許可での製造販売は直ちに処罰の対象となる重い違反となる。一方の「承認」は、事業活動の禁止解除ではなく、個別の品目が基準に適合することを国が確認して与えるお墨付きであり、審査の中身も申請資料に基づく科学的評価である。禁止を解く行為と、適合を認める行為。日本語ではどちらも「取る」ものだが、法的な性格はまったく異なるのである。
米国との対比ーー承認一本の国から見ると
この二本立ては、国際的にはむしろ少数派に属する。本連載の以前の回で述べたとおり、米国には「業許可」に相当する制度がない。NDAやANDAの承認(application)を保有していれば製品を市販でき、施設は登録と査察で管理される。
承認保有者の品質・安全管理体制は、業許可の要件として事前審査されるのではなく、cGMP査察や執行措置によって事後的に担保される。欧州は中間形で、販売側のMAH(販売承認保有者)は品目ごとの販売承認で規律される一方、製造側には製造許可(MIA)という業許可的な仕組みが存在する。日本の特徴は、製造側だけでなく販売側(製造販売業)にも業許可を課している点にあり、ここが「日本固有」と呼ばれるゆえんである。
外国企業への波及も大きい。業許可は国内の拠点と責任者を前提とするため、日本に拠点を持たない外国企業は自ら製造販売業者になれず、外国製造医薬品等特例承認の枠組みで国内の選任製造販売業者を立てることになる。米国で外国企業が直接承認保有者になれるのとは対照的である。
実務上の落とし穴
この構造を知らないと、実務で思わぬ躓きが生じる。
- 第一に、英訳の混乱である。承認はmarketing approval(またはmarketing authorization)、許可はbusiness license(establishment license)と訳し分け、契約書では知財のライセンスと紛れないよう定義条項で明確にしたい。
- 第二に、事業再編・M&Aでの取り扱いである。品目の承認は承継の手続きにより引き継げるが、業許可は原則として組織に紐づくため、事業譲渡のスキームによっては譲受側が新規に許可を取得しなければならない。クロージング日と許可取得日の整合は、薬事デューデリジェンスの定番論点である。
- 第三に、更新の管理である。承認に有効期限は原則ないが、業許可は5年ごとの更新制であり、更新漏れはすべての製品の販売停止に直結する。
おわりに
承認はモノへの、許可は組織への、それぞれ独立したお墨付きである。この二本立ては一見回りくどいが「体制を事前審査する」日本の規制思想の背骨であり、製造販売業・三役・GQP/GVPといった本連載でおなじみの仕組みは、すべて「許可」の側にぶら下がっている。海外に日本の制度を説明するときは、まずこの二本立ての絵を描いて見せること。それだけで、その後の話が驚くほど通じやすくなるはずである。
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