QA・QC・QPは何が違うのか
日本の「三役」、EUのQP、米国のQuality Unit
はじめにーー似て非なる三つの略語
品質保証(QA)、品質管理(QC)、そしてQP。製薬業界の品質部門では似たような略語が飛び交い、入社間もない担当者を悩ませる。しかも厄介なことに「誰が製品の出荷を最終的に決めるのか」という最も重要な問いへの答えが、日本・EU・米国で異なるのである。
海外パートナーとの品質取決め書(Quality Agreement)で「QAが出荷判定する」と書いたつもりが、相手はまったく別の役割を思い浮かべていたーーそんな行き違いは実際に起こる。本稿では、まずQAとQCの基本を押さえたうえで、三極それぞれの「出荷を決める人」の違いを解説する。
QAとQCの基本ーー「試験する人」と「仕組みを保証する人」
最初に一般的な整理をしておく。QC(Quality Control、品質管理)は、原料や製品を試験検査し、規格に適合しているかを確認する機能である。分析機器を扱い、試験成績書を作成する、いわば「測って確かめる人」である。
これに対しQA(Quality Assurance、品質保証)は、製造記録や試験記録のレビュー、逸脱や変更の管理、教育訓練、自己点検など、品質を作り込む仕組み全体が機能していることを保証する役割を担う。試験に合格していても、製造中に逸脱があれば出荷してよいとは限らない。個々の試験結果とプロセス全体の両方を見て総合判断するのがQAである。
ここまでは三極でおおむね共通の理解といえる。違いが生じるのは、この判断を「誰が」「どんな資格で」行うかである。
日本ーー二段構えの出荷判定と「三役」
日本の特徴は、出荷判定が二段構えになっていることである。まず製造所では、GMP省令に基づき製造管理者のもとで品質部門が製品の試験検査と記録照査を行い、製造所からの出荷可否を判定する。しかしこれで市場に出せるわけではない。
次に製造販売業者側で、GQP省令に基づき品質保証責任者が「市場への出荷の可否の決定」を行う。委託製造が全面化した日本では、製造所の判断と市場責任者の判断を分けることで、どれだけ製造を外部化しても市場への品質責任が製造販売業者に残る構造を作っているのである。品質保証責任者は、総括製造販売責任者・安全管理責任者と並ぶ、いわゆる「三役」の一角であり、その設置は製造販売業許可の要件である。
つまり日本では、出荷判定者は「業許可の体制の一部」として行政の事前審査を受けた者なのである。なお製造所の側にも、医薬品製造管理者(原則として薬剤師)という許可要件上の責任者が置かれており、製造所と製造販売業者の双方に法定の責任者が存在する点も日本の特徴である。具体例で考えてみよう。
委託先の製造所で製造中に逸脱が発生したとする。製造所は逸脱を調査し、品質への影響を評価したうえで製造所としての出荷判定を行うが、その情報は品質取決めに基づき製造販売業者へ連絡されなければならない。製造販売業者の品質保証責任者は、逸脱の内容と製造所の評価を確認し、必要なら追加の説明や試験を求めたうえで、市場出荷の可否を自ら決定する。
製造所が「問題なし」と判断しても、市場出荷を止める権限と責任は製造販売業者側にある。この二段構えが日本のGQPの核心である。
EUーーQPという「個人の法定資格者」
EUの答えは、QP(Qualified Person)である。EU指令に基づき、薬学・化学等の学位と一定年数の実務経験という法定要件を満たした個人が当局に登録され、製造所ごとに置かれる。QPの中核業務はバッチサーティフィケーション、すなわち「このバッチはGMPと販売承認の内容に従って製造された」と個人名で認証することであり、この認証なしにEU市場へ製品を出荷することはできない。
詳細はEU-GMPのAnnex 16に規定されている。重要なのは、QPの責任が組織ではなく個人に紐づく点である。QPは自らの判断で認証を拒否でき、不適切な認証を行えば個人として制裁の対象になり得る。
日本の品質保証責任者も重い責任を負うが、EUのQPは「国家が資格を認めた個人による認証」という色彩が一段と強い。なお安全性監視の分野にも、EUにはQPPV(ファーマコビジランス責任者)という別の法定責任者が存在する。
米国ーー組織としてのQuality Unit
では米国はどうか。米国cGMP(21 CFR 211.22)が求めるのは、Quality Control Unit、通称Quality Unitという「組織」である。Quality Unitは、原料・資材・製品の合否判定、手順書の承認、逸脱の調査などについて権限と責任を持たなければならないが、その責任者個人に法定資格は要求されない。
学位要件も当局への登録もなく、誰を責任者にするかは企業の判断である。出荷の可否はQuality Unitという組織機能の判断として行われ、責任は最終的に企業(承認保有者・製造者)に帰属する。ここでも米国は「業態や個人を事前に資格審査せず、査察と執行で事後的に担保する」という一貫した思想を貫いているのである。
もっとも、個人資格がないことは個人が責任を免れることを意味しない。米国では、法人の違反について、それを防ぐ立場にあった経営幹部個人の責任を問い得るという判例法理が確立しており、品質問題を放置した企業では経営陣が訴追された例もある。資格制度で入口を縛る代わりに、結果責任で個人にも届くーーこれも米国流の一面である。
実務上の注意ーー品質取決め書では役割を具体的に書く
この違いは委受託の実務に直結する。たとえば日本企業がEUの製造所に委託する場合、製造所側のQPによるバッチ認証と、日本側の品質保証責任者による市場出荷判定は別物であり、両方が必要である。品質取決め書に「QA」「responsible person」といった曖昧な語を使うと、どちらの制度上の誰を指すのか分からなくなる。QPのバッチ認証、GMP出荷判定、GQPの市場出荷判定という制度上の行為を明示し、それぞれの実施者・情報の流れ・逸脱時の連絡経路を書き分けることが望ましい。
おわりに
日本は業許可に組み込まれた責任者、EUは国家資格を持つ個人、米国は企業内の組織機能。「出荷を決める人」の設計には、各極の規制思想がそのまま表れている。用語を輸入して済ませるのではなく、制度上の行為に立ち返って役割を定義することが、国際品質保証の出発点である。
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