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QAのAは「Audit」ではない

“お墨付き”を与えるという仕事

買ったばかりの製品が故障し、メーカーの相談窓口に電話した。すると担当者が「その製品は新人が設計したので、品質が少し悪いんです」と答えた。あなたは納得できるだろうか。

多くの人は「誰が作ったかは関係ない。会社として責任を持ってほしい」と思うはずである。その当たり前の感覚こそが、品質保証の出発点である。本稿では、QAのAが意味する「Assurance」とは何かを解説する。

「監査すれば品質は保証される」という誤解

QAはQuality Assuranceの略で、品質保証と訳される。ところが製薬業界でコンサルティングをしていると「監査こそが品質保証だ」と思い込んでいる人に少なからず出会ってきた。監査によって品質が保証される、という考え方である。

しかし、もし監査が品質保証なら、Quality Assuranceではなく「Quality Audit」と呼べばよいはずである。QAのAは、Audit(監査)ではなくAssurance(保証)なのである。品質マネジメントの用語を定めた国際規格ISO 9000:2015(日本ではJIS Q 9000:2015)も、両者をはっきり区別している。

品質管理(QC:Quality Control)は、品質要求事項を満たすことに焦点を合わせた活動である。一方、品質保証は、品質要求事項が満たされるという「確信を与える」ことに焦点を合わせた活動と定義されている。監査はさらに別の用語として、基準が満たされているかを客観的な証拠に基づいて判定する、体系的で独立したプロセスと定義されている。

品質保証の核心は「確信を与える」ことにある。これを日本語で平たく言えば「お墨付きを与える」ことだと筆者は考えている。

組織には、いろいろな人がいる

では、誰に対して、どのようにお墨付きを与えるのか。まず、組織の現実から考えてみたい。企業には、さまざまな人が働いている。

入社したばかりで仕事に不慣れな人がいる。その仕事に向いていない人もいる。そそっかしい人もいる。まれにではあるが、よこしまな考えを持った人もいるかもしれない。

だからといって「あなたは不慣れだから仕事をしないでください」とは言えない。不慣れな人を仕事から外して放置すれば、いつまでたっても力量は上がらない。OJT(職場での実務を通じた指導)で経験を積ませ、できるようにしていくしかない。

不向きな人も、何とかできるように導く必要がある。また、よこしまな考えを持った人がいる可能性も、品質の世界では想定しておかなければならない。「うちの社員に限って」という性善説だけでは、記録の改ざんやデータのねつ造は防げない。

第三者の目が入っていること自体が、不正への抑止力になるのである。一方で、顧客から見れば、そうした社内事情は関係ない。冒頭の電話のように「新人が作ったので品質が悪い」という説明は通用しない。ここに、品質保証が必要になる理由がある。

経験者がプロセスに深く関与し、お墨付きを与える

そこで登場するのが、経験とスキルを備えた専門家である。こうした人をSME(Subject Matter Expert)と呼ぶ。その工程、その製品、その領域に精通したエキスパートのことである。

裏を返せば、品質保証の担当者には、その領域の実務を理解する力が求められる。製造を知らない人が製造記録を確認しても、書式の不備を探すことしかできない。試験の原理を知らない人が試験結果をレビューしても、数値の妥当性は判断できない。

筆者が、品質保証の担当者に製造や試験、設計などの実務経験を積ませるよう勧めているのはこのためである。SMEは、不慣れな人や不向きな人を指導し、助言する。完成品を最後にチェックするだけではない。

作業の計画段階から、実行の途中まで、プロセスに深く関与する。そして、実施した部門に成り代わって、こう保証するのである。「私の助言どおりに作業したのであれば、報告書を書いたのであれば、試験を行ったのであれば、その結果には私が責任を持とう」。

筆者は、これこそがアシュアランスの本質だと考えている。QCとの違いも、ここで見えてくる。QCは間違いを見つけて、標準どおりのやり方に戻す活動である。

QAは、間違いがないことを第三者の立場で確認し、お墨付きを与え、その結果に責任を持つ活動である。監査との違いも明確である。監査は、仕組みが規則どおりに作られ、有効に機能しているかを定期的に点検する活動である。

個々の製品や作業結果に対してお墨付きを与えるものではない。そのため、品質保証の担当部門も、監査を受ける側に含まれる。

「あの人がやったから」とは言えない

冒頭の電話を思い出してほしい。私たちが企業に求めているのは、誰が設計しようと、誰が製造しようと、会社が監視と監督を行い、よいものだけを出荷することである。品質保証部門は、顧客に対する説明責任を負う。

製薬業界では、これに加えて規制当局に対する説明責任も負う。問題が起きたとき「あの担当者がやったから」と当事者のせいにすることはできない。お墨付きを与えた以上、その責任は品質保証部門が引き受けるのである。

だからこそ、品質保証部門には重い権限も与えられている。その代表が、製品を出荷してよいかを判定する権限である。製造部門や試験の担当者にミスがあったとしても、出荷を判定した者は、そのミスをした人のせいにはできない。権限と責任は表裏一体なのである。

お墨付きは「ハンコを押すこと」ではない

ここで注意したいのは、お墨付きとは、書類に承認印を押すことではないという点である。内容を理解しないまま押印するだけのQAは、名前を貸しているにすぎない。それでは顧客に確信を与えることはできない。

お墨付きに説得力を持たせるのは、プロセスへの関与の証拠である。筆者は、実施部門との協議の記録を残すことを強く勧めている。何を確認し、どんな助言をし、どのように修正され、どの根拠で合意したのか。

こうした経緯が記録に残っていれば、後日、顧客や規制当局に問われても、品質保証部門が自らの言葉で説明できる。これは、製薬企業に機器やソフトウェアを納める企業にとっても同じである。製薬企業の監査では、設計や試験の結果に対して、誰がどのように確認して責任を持ったのかが問われることが多い。

自社の品質保証部門が、実際にプロセスに関与した記録を示せるかどうか。それが、顧客の信頼を左右する。

まとめ

  • QAのAはAssurance(保証)であり、Audit(監査)ではない。ISO 9000でも両者は別に定義されている
  • 組織にはさまざまな人がいる。経験者(SME)がプロセスに深く関与し、実施部門に成り代わってお墨付きを与えることがアシュアランスである
  • 品質保証部門は顧客や規制当局に説明責任を負い、「あの人がやったから」とは言えない

お墨付きとは、責任を引き受けるという宣言である。自社のQAは、ハンコを押す部門になっていないか。プロセスに関与し、自らの言葉で品質を説明できる部門になっているか。一度点検してみてはいかがだろうか。

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