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デジタルヘルスと診療報酬

「承認さえ取れれば、あとは自然と売れる」ーー治療用アプリの事業で、この見立ては危うい。薬機法上必要な承認・認証・届出などは、市場導入のための規制上の要件であって、それだけで利用や売上が保証されるものではない。日本の医療現場で実際に使われ、事業として続くには、もう一つの関門がある。

診療報酬上の取扱いーーつまり、その機器を用いる診療が公的保険でどう評価され、医療機関がどの項目を算定できるか、機器に別建ての材料価格が付くか、である。これはメーカーの販売価格や売上と同一ではないが、事業性を大きく左右し得る。プログラム医療機器が普及するかどうかは、この保険上の評価に大きく左右される。

医師の指示の下でアプリを使用しても、医療機関側の業務や製品費用が既存の報酬で十分に賄えなければ、導入の障壁になり得る。患者負担が大きい場合も、価格や対象疾患によっては普及の壁になる。だから、公的保険診療で広く使われることを目指す製品では、薬機法上の市場導入手続と保険上の取扱いの双方が重要になる。

ただし、常に独立した新規価格や点数が付くとは限らない。既存の技術料に包括される場合もあれば、評価療養・選定療養として保険診療と併用される場合、そもそも保険外診療で用いられる場合もある。薬機法上の承認は製造販売のための主要な要件の一つであり、保険上の評価とはそもそも別の制度である。

ここで「ハードウェアは製品そのものに価格が付き、ソフトウェアは効果に対して支払われる」という理解が、しばしば混乱のもとになる。制度上はそう単純ではない。医療機器は、有体物かソフトウェアかを問わず、機器費用が既存の技術料に包括される場合もあれば、特定保険医療材料として機能区分ごとの価格が付く場合、新たな技術料や加算で評価される場合もある。

ソフトウェアは複製の限界費用が小さいという特徴を持つが、それと診療報酬上の評価方法は別の話だ。プログラム医療機器も、既存技術への加算、新たな技術料、特定保険医療材料としての価格、施設基準の緩和など、使用目的と臨床上の位置づけに応じた複数の方法で評価される。実際、高血圧治療補助アプリは2024年にC1区分の特定保険医療材料として評価されている。

では、何を説明できればよいのか。患者の臨床アウトカムをどれだけ改善するか、既存技術と比べてどのような追加的価値があるか、医療費全体にどのような影響を与えるかーーこれらを、希望する評価区分に即して説明する必要がある。医療費削減は重要な要素になり得るが、常に必須条件ではない。臨床価値のある製品は、総医療費を増加させても評価され得る。

ここでも効いてくるのが「使用目的」の設計である。承認・認証等で定めた「使用目的又は効果」は、保険評価の対象範囲を画する重要な出発点になる。何を治療し、どんな成果を出すと主張したのかーーその言葉の設計は、後の議論の土台を規定する。

ただし、実際の評価区分や価格・点数は、既存技術との関係、使用方法、比較臨床データ、医療経済性なども含めて判断される。使用目的だけが支払いを決めるわけではない。だからこそ、臨床的な効果をどの指標で示すかを、開発の初期から保険上の出口まで見据えて設計しておく必要がある。

技術者が性能を作り込むより前に、「何を成果として証明し、その成果を制度のどの経路で評価してもらうのか」という筋書きを描いておきたい。なお、エビデンスの蓄積に応じて使用目的を広げていく二段階承認のような仕組みもあり、出口の設計は一度きりの決め打ちではない。もう一つ見落とされがちなのが、保険で評価されるまでの「時間」である。

承認・認証等の後、希望する保険評価区分によっては別途の申請・審議が必要で、収載まで時間差が生じ得る。期間は区分によって異なり、既存技術料への包括で早期に適用される場合もあれば、C1・C2等で数か月を要する場合もある。承認後・保険収載前の医療機器や、第一段階承認後のプログラム医療機器には評価療養という経路もあり、この空白を緩和する制度は用意されている。

それでも、この時間差は、特に資金余力の限られる事業者にとって資金計画上のリスクになり得る。実務では、収益化の設計を承認戦略と切り離してはならない。承認取得後も、保険上の取扱いや販売経路が整わなければ、想定どおりに普及・収益化できない可能性がある。

近年、プログラム医療機器の診療報酬上の評価、評価療養・選定療養などの枠組みは整備されつつあるが、臨床価値の評価方法や原価計算の在り方にはなお検討課題が残る。実用化と収益化は、別々の課題ではなく、最初から一つの設計として考えるべきものだ。承認は、スタートラインにすぎない。

デジタルヘルスの本当の勝負は「その効果に、社会がいくら払う価値を認めるか」を、制度の言葉で説明できるかにある。売れる技術ではなく、報われる価値を作れるかーー問われているのは、そこなのである。

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